副社長と愛され同居はじめます
「いや、だから愛人になんかなりたくないんだってば」

「だからそんなものは求めてないと言っている」

「じゃあ貴方は私にどうしてほしくてこんなことしてるのよ?!」



そしてまた、そこで会話が止まるわけだ。


ぶふ、と堪えきれず吹き出したような笑いと「失礼しました」と取り繕う声が運転席から聞こえる。
ですよね、笑いたくなりますよくわかります。


これまで運転手としての職務を淡々と全うしてきた芹沢さんが、ちょっぴりだが初めて崩れた。



「ほら。芹沢さんもおかしいって言ってる」



ちょっと勝ち誇ったようにそう言うと、成瀬さんの表情がぴくりと動いた。



「……言わなかったか?」

「え?」

「俺は、荒川小春が欲しいと言った」



…………いつ。
どこまで遡ればその言葉が見つかるのか!



「えっ、言われてない」

「言った」

「知らないってば」

「なら、もう一度言う。お前の全部が欲しいんだがいくらつぎ込めばいい?」



呆然として、言葉が出なかった。


言い方!
言い方ってやつよ、普通恋愛モードでの「お前が欲しい」というセリフの後ろに「いくらつぎ込めばいい?」はついて来ない!


そう言えば、初めてキスした後に確かに、似たようなセリフを聞いたような気はした。
もしやあれが……そうだったのか?


だけど結局、話は堂々巡りだ、何せ根本が変わっていない。



「だから、愛人になんかならないって。一夜限りとかもお断りで、」

「結婚が前提ならいいんだろう」



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