副社長と愛され同居はじめます
思考は完全停止した。


私の世界が急展開しはじめる、今まさにその嵐の真ん中に立たされているような気分。



「成瀬の籍に入るにはすぐには無理だが、婚約者という形なら今すぐにでも。小うるさい親戚連中がいるにはいるが、小春の血筋なら問題ないだろう」

「え……」



そしてその嵐はどうやら、私が思っているよりも随分計算づくで起こされているらしい、成瀬さんの手によって。


瞠目する私を見て、成瀬さんの目が三日月を象った。
勝ちを悟ったその表情に、私は身震いをする。



「店に迷惑をかけたくないというのなら、辞めればいい。弟の大学費用も生活費も工面しよう」



彼が一度、身体を引いて距離を取る。
そして、私に向かって手を差し伸べた。



「小春が婚約者として、この手を取るのなら」



私に、自分からこの手を取れと、言っている。



「……何をご存じなんですか。私達のこと」

「荒川のことなら多分、小春よりも知っている。どうする?」



たじろぐ私に、これまで威圧的だった微笑みがほんの少し和らいだ。
それすらも、罠のような気がして仕方がないけれど。



「知りたければ、俺のところにおいで。……虎穴にいらずんば虎児をえずというだろう」



そう、まさしく猛獣の巣窟に飛び込む兎。
小動物並みにぶるぶる震える指先を、私は意を決して彼の手に乗せた。


引き寄せられたその腕の中は、私にとって天国だろうか地獄だろうか。
今はまだ、わからない。


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