縁に連るれば
『我々は、これからは特に慎重に活動していく身だ。呉々も行動には気を付けたまえ』



そうだよな、とは思うのだが。

何も踏ん切りのつかない状態をやめなければ、とも思うのだが。


如何せん、素直になりきれない自分がいる。


行動に気をつけろと言われた手前、素直になってはいけない、と自分を抑制している部分もちゃんとある。

こんな時期にこんなことになってしまうとは、思ってもみなかった。



どうするのが一番いいのだろうか――?




ふう、と息を整えて、あの部屋の障子の前に立つ。

そろそろ、起きた頃だろうか。



「入ってもいいかな?」



もう数日続けている日課。

朝、妃依ちゃんの元に朝餉の膳を届けることだ。

夕食は仕事の関係で俺はできないから、誰かが給仕してくれている、はずだ。


今朝は邪魔者達がいない。


さっさと部屋に入って膳を置く。

よく眠れたかと問えば、頷いてくれ、何だか安心した。


そんなところに、懸案事項がもう一つ。



「今日は朝から巡察だから、また一人でいてもらうけど……大丈夫?」



一応、ここは男所帯だから聞いておく。

やはり男まみれの中にいるのは、何かと不便だし危険だ。

すると妃依ちゃんは、筆を走らせた。



『今日は荷物を取りに行くので大丈夫です』



心が少しざわついた。

風で騒々しい森に、一人取り残された気分に似ている。


彼女は外に知り合いでもいるのだろうか?


行く宛がないのだと思っていたけど、ただ帰りづらいだけなのか。



「ああ、そう……そういえば」



抑えていた俺はいなくなっていた。

つい口が勝手に動いてしまう。



「あの夜、どこに泊まったの?」



聞いてしまった。

なんだか聞いてはいけないような気もしていた。


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