縁に連るれば
どこへともなく縁側をひたすら進み続ける。

どのくらい進んだかは分からないが、副長部屋の前ではないことを確認し、縁側にある軒柱に拳をつき、そこに額を当てる。


何度だめだと言ったら分かるんだ、俺は。

聞いてもいいかもしれないが、それは俺でなくてもいいはずだ。


自分で自分が分からない。

抑制の効かない自分が怖い。



「何してるんですか、藤堂さん」



息を整えていると突然男性に声をかけられ、はっとする。

声のした庭の方を見ると、中村君がいた。



「ああ、中村君か、驚いたな」



はは、とおどけて見せるが、彼の仏頂面が一段と圧を増す。



「俺は“何してるんですか”って聞いたんですが」


「そんなに固く考えないでよ。何もしてないってことだよ」


「そうでしょうか」



彼はぱっと視線を外して腕を組む。

遠くを見る素振りをするが、その向く先はおそらく妃依ちゃんのいる部屋の方だ。

まったく、分かりやすい。



「最近の藤堂さんについて、良くない噂が飛び交ってますよ。気を付けた方がいいです」



何とも嫌みっぽく言われる。

彼には本当に“後輩”という自覚があるのだろうか。


その噂――おそらく妃依ちゃんの件だ。

関連して、俺が土方さんの部屋に出入りしていたのも見られていたのだろう。


人は怖い。

真実をぶくぶくと太らせて、触れてまわる。

そのうち、どの自分が――触れてまわられている自分が本物なのか、今ここに在る自分が本物なのか、分からなくなっては狂うこともあるだろう。


信じていい人と信じてはいけない人。

見極めなければ、易々と世を渡ることなどできない。

そもそも、“易々と”は生きていけないものだけど。


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