縁に連るれば
「おい、山崎どこだ。勘定は?」
土方さんが屋台の向こうに声をかけると、山崎さんは網敷天神の鳥居の方から出てきた。
まさかそこを問われるとは思っていなかったようで、少し戸惑っているようだ。
「え……いらないです」
「見事な奉仕だ」と返しつつ、土方さんは少し銭を置いた。
口止め料なんかではなく、ただの駄賃だろう。
最終手段だと思っていた相手に断られようとは、俺もつくづくついていないな……
そう肩を落としかけると、土方さんは立ち上がり様、肩にぽんと手を置いてきた。
突然のことに驚いて見上げる。
「できる限り取り計らおう。昔のよしみだ、山崎にも協力を要請できそうだしな」
「あ……ありがとうございます!」
くっと口端を上げた彼を見て、ぱっと花が咲いたように表情を明るくしてしまった。
我ながら分かりやすい性格だ。
じゃあ俺は先に戻るぞ、と言う背中に、立ち上がって再び感謝の意を告げる。
――ああ、よかった。
これで俺が脱隊した後の彼女は安泰だろう。
「山崎さんも、ありがとうございました」
「構へん。まあ、まとまってよかったですね」
「ですね……」
山崎さんにも礼を述べると、振り売りの姿に戻り、「ほなな」と言っては東へ帰っていった。
一人、暗い天神前に残された。
犬の遠吠えが聞こえると、妙に冷静になる。
ついでだから、とお参りしていくことにした。
あとは俺が彼女に話すだけだ。
やはりそれは緊張する……が、話さなければ進めない。
どうか妃依ちゃんが平穏に過ごせますように――。
社の前で手を合わせ願ったのは、自分の今後の安泰よりも、そんなことだった。
土方さんが屋台の向こうに声をかけると、山崎さんは網敷天神の鳥居の方から出てきた。
まさかそこを問われるとは思っていなかったようで、少し戸惑っているようだ。
「え……いらないです」
「見事な奉仕だ」と返しつつ、土方さんは少し銭を置いた。
口止め料なんかではなく、ただの駄賃だろう。
最終手段だと思っていた相手に断られようとは、俺もつくづくついていないな……
そう肩を落としかけると、土方さんは立ち上がり様、肩にぽんと手を置いてきた。
突然のことに驚いて見上げる。
「できる限り取り計らおう。昔のよしみだ、山崎にも協力を要請できそうだしな」
「あ……ありがとうございます!」
くっと口端を上げた彼を見て、ぱっと花が咲いたように表情を明るくしてしまった。
我ながら分かりやすい性格だ。
じゃあ俺は先に戻るぞ、と言う背中に、立ち上がって再び感謝の意を告げる。
――ああ、よかった。
これで俺が脱隊した後の彼女は安泰だろう。
「山崎さんも、ありがとうございました」
「構へん。まあ、まとまってよかったですね」
「ですね……」
山崎さんにも礼を述べると、振り売りの姿に戻り、「ほなな」と言っては東へ帰っていった。
一人、暗い天神前に残された。
犬の遠吠えが聞こえると、妙に冷静になる。
ついでだから、とお参りしていくことにした。
あとは俺が彼女に話すだけだ。
やはりそれは緊張する……が、話さなければ進めない。
どうか妃依ちゃんが平穏に過ごせますように――。
社の前で手を合わせ願ったのは、自分の今後の安泰よりも、そんなことだった。


