縁に連るれば
「俺はもう数日も経てば屯所を離れなければならない。伊東さんの目もある、さすがにそこに妃依ちゃんを連れては行けないでしょう。左之助達が俺の代わりになってくれるとは思いますが、上の手を借りた方が彼女のためになると思うんです。だから副長……」



彼女への思いがすらすらと出てくる。
不思議なくらいに。

それだけ、心の内の知らぬところで想っていたのだ。



「妃依ちゃんを、頼みます」



拳を握りしめながら、深く頭を下げる。

摘まみ出せと言われた手前、言えたことではないのは分かっている。

それでも、遊郭に売り飛ばすとか、そういうことはしてほしくない。
何としてでも。


すると聞こえたのは、はあ、という大きな溜め息。



「お前のことだから、どうせそんなこったろうと思ってはいたが……」



分かっているならぜひとも条件なしで承諾してほしい、と思いつつ。

返答には期待できないことは分かった。



「悪いが俺はどうもできねえよ。ひよこのお守りなんてしてる暇ァねえや」


「いいです。陰から気にかける程度でいいです。何とか……お願いします」



自分に都合が良すぎたか……

昔馴染みにも表面上手加減しないのはさすがとしか言いようがない。


やはり駄目か――


そう感じさせたのは、土方さんがそそくさと懐を漁り、財布を取り出す仕草をしたからだ。

もう帰るということだろう。


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