縁に連るれば
「藤堂先生、伊東先生がお呼びです」


「あ、中村君か。今行くよ」



彼は、俺と同じく“伊東先生”に付いている隊士の一人だ。

彼がここに来たということは、おそらくその“先生”の呼び出しがあったのだろうと思ったら、どうやらそうらしい。


ふと妃依ちゃんを見てみると、難しい顔をしている俺がよっぽど珍しかったのか、「何?」という表情で見られていた。



「ああ、伊東先生のこと?新選組の参謀、伊東 甲子太郎先生のことだよ。俺が通ってた道場の主だったんだ」



先生のことを人に言う時、俺はどのくらい誇らしげに見えるのだろうか。

たしかに誇らしい気持ちではある、けれど現状、名を言って誇らしく思うのは決して一人だけとは言い切れない。

それくらい、新選組にはいい人材がいると思っている。



――あと数日後。


俺はこの煮え切らない気持ちのままで、これからどう生きていくのだろう?



「じゃ、またね!」



そう言って左手を上げ、俺は逃げるように縁側を走った。



どうせ聞かれても、何も答えられないんだ。

答えることはできない。


俺が何をしていて今どういう状況にある、という詳細を隠して妃依ちゃんと接していくのは、あとどのくらいもつだろうか。

彼女が何か聞いてこないとも限らない。


そうだ、妃依ちゃんの前では、伊東先生達のことは何も考えないようにしよう。

“無”でいよう。

でないと、何か口外してはいけないことを言ってしまいそうな気がする。


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