縁に連るれば
彼女のことだけを考えていればいい。


そう決意を固めると同時に、俺は唇を噛み締めた。


彼女に逢う時期が少しずれていたらよかったのに、と思ったからだ。



「……そう思っても仕方ない、か」



妃依ちゃんは、俺がいない間は何をして過ごしているんだろう……なんて。

自分のことは隠すくせに、人のことは知りたがる。

そんなの不公平だろうな、と気づいてしまったら、もうすべての感情を消し去りたくなるほどだった。




「――何が“仕方ない”んだ?藤堂君」




聞き覚えのある声にはっとして、前を見る。


そこには、不敵な笑みを浮かべた伊東先生がいた。


どこかの部屋に通されるのだと思いきや、何故か縁側をこちらに向かって歩いてきていたようだ。

待ちきれないほど時間が経っていただろうか。



「あ、伊東先生……お呼びですか?中村に聞いて、ちょうど向かっていたところでしたが」



突然のことに驚いたが、今は醜態を晒す時ではない。

醜態かどうかも分からないけれど。


妃依ちゃんの存在を小耳に挟んではいるだろうし、だからこそ、彼女に対して迂闊なことはできない。

とにかく、油断できないお方だ。



「ちょっと外へ出ないかい?」



ここでは話しにくい、と暗に伝えられたような気がした。

それを感じとった俺は、「はい」とだけ返事をし、後は先生の後ろに付き従った。


でも、何かそんなことがあっただろうか?

ここでは話せない、何か……


まったく心当たりがないまま、西本願寺の門を潜り大路に出た。


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