縁に連るれば
「何も考えずに拾ったわけではなかろう。どうするつもりで引き取ってきたんだい」



おそらく、昨夜の脱走の件を聞きつけて俺に今こんな話をしているのだろう。

ようやく検討がついた。


逃げるような娘を置いておいて大丈夫なのか?

お前は正気か?

……と問われているのだろう。



「彼女が引剥ぎに遭っていたところを偶然通りかかったんです。それで助けてやった……ただそれだけです」



いや、そうじゃない……

とりあえずで答えた言葉に、自分で納得できなかった。


合う言葉を探していたら、ああ、これなら伊東先生にも通じるかもしれない、という言葉を心の中に見つけ出す。



「――誰にも帰る家があると思っていた自分の認識が浅はかでした」



そうだ。そうなんだ。

ただそれだけが、かろうじて今、思いつく限りで素直に言えることだった。



「つまり娘は帰る家がない、ということか?それは困ったことだね」



やはり伊東先生は、そこに着目したようだ。

でも、先生はこんな多少のことでは動じないし、俺もそこからさらに説き伏せようとは思わない。



「先生のお手を煩わせるようなことにならないようにします。大丈夫です、何とかします」



この場をやり過ごすくらいでいい。

それくらいでいい。

妃依ちゃんと深く関わりすぎないためにも。


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