縁に連るれば
妃依ちゃんのいる部屋に戻ってくると、中から左之助や尾形、尾関が出てきた。

女の子の部屋から立て続けにむさ苦しい男が出てくるとは何事かと一瞬疑いをかけたが、話を聞けばどうやら4人で百人一首で遊んでいたらしい。


それは本当のことのようで、部屋に入ると下の句の書かれた札が1枚落ちていた。

しまい忘れたのか、と拾い上げ、そこに書かれていた下の句にはっとさせられた。



「『これやこの』……か。この部屋みたいだね……」



多くの人々が別れと出会いを繰り返す逢坂の関。


妃依ちゃんと俺にとっては、ここなんだ。

正確には関は屯所かもしれないが。


俺達の関係も、出会いと別れの一巡だけだ。

会って別れる、それだけの、ただ一瞬のこと。



「あ、気にしないでね。……それよりさ」



急に、妙な寂しさに襲われた。


ふと思った。

隊を離れるまでに、俺は“聞ける”のだろうか、と。



「君の――」



そこまで言いかけたところで、瞬時に我に返る。

伊東先生から呼び出しがあったというのに、俺は性懲りもなく、つい関係を持とうとしてしまう。


俺が妃依ちゃんに言うべき言葉は、“そういう方向”のものじゃない。

ここで過ごすあと少しの時間、ただの“引剥ぎに遭った娘”と“助けた人”の関係でいなければ。



「……あっ、ちょっとこれ返してくるね」



俺が言おうとした言葉は、たった一言だ。



“君の声が聞きたいな”――



頬を熱くさせる、こんな自分を見せたくはない。

持っていた下の句の札を見せ、俺は逃げるように左之助の後を追って縁側に出た。


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