【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-



「あー……なんとなく、聞いてるんですけど。

あんまり空気悪くするのもな、って。みんなひのさんが来てくれるの、楽しみにしてたんです」



「そうなのね。……ありがとう。

今もそうやって、迎えてくれて」



姫という称号は、特別なもの。

それを手放してからもう随分と時間が経つのに、いまもこうやってそばにいようとしてくれるみんなには、感謝しなくちゃいけない。



「……ヒノっ!」



みんなとはすこし変わった声のトーン。

言われなくてもすぐに誰とわかる声を聞いて視線を向けると、相手はわたしの元へ駆け寄ってきて、勢いのままに抱きついてくる。その髪を優しく撫でたら、笑顔を向けてくれた。



「スミ、身長伸びた?」



「そ、伸びた!

ヒノとだいぶ釣り合う高さになっただろー?」




どやぁ、と自慢げな表情を浮かべる彼に小さく笑って「おっきくなったね」と頭を撫でたら、子ども扱いするなと怒られた。

スミこと、白濱(しらはま)アスミは、現在中学2年生の男の子だ。わたしと出会ったとき、彼は誰よりも姫という存在に嫌悪感を抱いている、女嫌いの男の子だった。



「アスミ。ひのさんに絡みすぎ。

幹部の皆さんの前なんだからちょっとは、」



「だってヒノは俺のだからいいだろ」



「お前のじゃない」



ばっさりほかの子に一蹴されてしゅんとする姿がかわいくて、よしよししたくなるんだけど。

そうすればまた子ども扱いだと文句を言うだろうから、代わりに「アスミ」と。めずらしく、ちゃんと名前で呼んだ。



「女嫌いはなおったの?

わたしとはこんな風に接してくれるけど」



「うっ……、そ、それは、」



< 53 / 245 >

この作品をシェア

pagetop