【完】BLACK JOKER -元姫VS現姫-
「あー……なんとなく、聞いてるんですけど。
あんまり空気悪くするのもな、って。みんなひのさんが来てくれるの、楽しみにしてたんです」
「そうなのね。……ありがとう。
今もそうやって、迎えてくれて」
姫という称号は、特別なもの。
それを手放してからもう随分と時間が経つのに、いまもこうやってそばにいようとしてくれるみんなには、感謝しなくちゃいけない。
「……ヒノっ!」
みんなとはすこし変わった声のトーン。
言われなくてもすぐに誰とわかる声を聞いて視線を向けると、相手はわたしの元へ駆け寄ってきて、勢いのままに抱きついてくる。その髪を優しく撫でたら、笑顔を向けてくれた。
「スミ、身長伸びた?」
「そ、伸びた!
ヒノとだいぶ釣り合う高さになっただろー?」
どやぁ、と自慢げな表情を浮かべる彼に小さく笑って「おっきくなったね」と頭を撫でたら、子ども扱いするなと怒られた。
スミこと、白濱(しらはま)アスミは、現在中学2年生の男の子だ。わたしと出会ったとき、彼は誰よりも姫という存在に嫌悪感を抱いている、女嫌いの男の子だった。
「アスミ。ひのさんに絡みすぎ。
幹部の皆さんの前なんだからちょっとは、」
「だってヒノは俺のだからいいだろ」
「お前のじゃない」
ばっさりほかの子に一蹴されてしゅんとする姿がかわいくて、よしよししたくなるんだけど。
そうすればまた子ども扱いだと文句を言うだろうから、代わりに「アスミ」と。めずらしく、ちゃんと名前で呼んだ。
「女嫌いはなおったの?
わたしとはこんな風に接してくれるけど」
「うっ……、そ、それは、」