街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー



「……え…なんで…」


予想を遥かに越えた発言に、俺はそんなことしか言えなかった。


「…大翔のおかげ、かな。」


だけど、理由も予想とは的外れな回答だった。


「前に、進みたくなったの。私も。
……前に大翔言ってたでしょ?
前に進むには、戦うしかないんだって。

だからね、私も戦うことにしたの。
今の自分が嫌で、過去の自分を許してあげられるようになりたいって思ったの。」


「でもそれがなんで留学なんだよ。
意味わかんねーよ。」


戸惑って、そんなきつい言い方しかできない俺にも、心優は顔色ひとつ変えず




「━━全部、ゼロから始めたいの。」


そう、決意を固めたように言った。




「大翔と出会ってね、大翔と付き合って思ったの。
一人で生きてくって大変なんだな、って。」


「……は?」


「親に捨てられて一人暮らし、なんていっても
私の住んでるところなんて結局親が用意した部屋で、親が家賃も光熱費も払って、親が決めた家政婦がうちにいて、親が決めた運転手が私を送迎する。

ずっと親から逃げてたけど、でも本当はただわがまま言ってただけなんだって、大翔のおかげで気づけたの。」


心優のその言葉に、俺はもうなにも返せない。
なにを言えばいいのかもわからなかった。


「……だからね、こんな状況を続けていくのは嫌だったの。
はっきりさせたかった。

両親に、私を捨てる覚悟があるのか、ないのか。

だから…私は久しぶりに実家へ行ったんだ。
あの日…学校を休んでた日に。」


「……あぁ、体調不良じゃないけど休んだ…」


「そうそう、あの日。
まぁ、実際中に入れてもらうまで、かなり時間がかかったんだけど…
父が、やっと折れたの。
やっと私を中にいれてくれて、何ヵ月かぶりに顔を見たの。」


「……それで?」


「…お前みたいなやつのせいで、仁科家に傷をつけるな
だってさ。」





…………は?




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