街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー
いつの間にか、雨が止んでいて
俺は自然と立ち上がって、海と空がよく見えるように屋根の下から出た。
「すごい…きれい。」
「な。すげー」
そこには、真っ赤に染まった空と、真っ赤に染まった海。
でもそれだけじゃなくて、この島も、向こうの街も、そしてここの空気や俺、心優までもを染めてしまうくらいの綺麗な夕日だった。
「……俺さ、夕焼けって特別好きなんだよね。
ただの夕日じゃなくて、こんくらい赤く染まる夕焼けが。」
「え、なんで?」
「昔、母さんが死んだときさ、父さんが言ったんだよ。
母さんが死ぬなんて昨日は思いもしなかった俺に、明日になにが起こるかなんて誰にもわからない、って。
その時も、さっきまで雨だったのにいつの間にか晴れてて、こんくらいすげー夕焼けでさ。」
母さんが危ないと呼び出された時はすげー雨だったのに
母さんが永遠の眠りについて、泣きそうで外に出たときはもう晴れていた。
不思議な天気だったんだ、あの日も。
「明日、なにが起こるかなんて誰にもわからないし、わかったら面白くないだろ?って。
でも、明日いいことがあるってわかってたら、少しは明日が楽しみにならないか?って。」
「……どういう意味?」
「雨上がりの夕焼けは、明日が晴れるって前兆だから、ってさ。
今日散々雨が降ってたって、街を染める夕焼けが見れたら明日は晴れるから、って。
たったそれだけのことでも、明日が楽しみにならないか?って言ったんだ。
明日が晴れるなら、外でなにして遊ぼうかとか、どこへ出掛けようかとか、明日眠る時の布団は気持ち良さそうだな、とか。
天気予報なんてものがあるけど、こうやって地球が教えてくれた方が、明日が楽しみになるだろ?って。
なんかそれがすっげーガキっぽくて、ばからしかったんだけどさ
……笑っちゃったんだよね。」
あんなに泣いてたのに
母さんがいなくなって悲しいなんて言葉じゃ済まされないくらい辛かったのに
なんだか、ずっと苦しんでた母さんが解放されて喜んでるみたいで
そんな母さんの気持ちを、父さんもちゃんとわかってるみたいで
あの日から、俺は泣くのを辞めたんだ。
━━━明日もきっといいことがある。
そう、信じて。