街が赤く染まる頃。ー雨 後 晴ー



「…ふふ」


俺も、というか心優が前を向き直したのに、俺だけが右に何があるのかと見ていると、心優はまた上品に笑った。


「そんな気になる?」


「え。…いや、別に」


本当にとことん
俺はこの笑い方が嫌いだ。

その上品さが似合いすぎてて
まるで男に好かれたくてやってるみたいな笑い方が腹立ってしかたない。


「行くぞ」


信号が青になって、俺はさっさと歩き出した。
なんでこんな腹立ってんのか、俺でもわからないんだけど。

すっげーモヤモヤして、俺の中だけ雨が降りそうなくらい曇暗に包まれていた。


「向こうには、前話した喫茶店があるの。」


「喫茶店?
……あー、あの元カレのいた…」


「そ。懐かしくて見てただけ。」


「まだいんの?」


「さぁ?知るわけないじゃない。
会ってもないし、もう何ヵ月も行ってないのに。

でも、あそこのママさんは本当にいい人だったし、なんでもすっごく美味しかったから
あんな思い出がなかったらまた行きたいのに」


「ふーん…
……じゃ、早くお前なりに成長しないとな。」


「は?」


「成長して、自分を許してやれば?
そうすりゃ辛い思い出しかなくても笑ってられるんじゃね?
お前自信が胸張って幸せだって言えりゃ大丈夫だよ。」


「……自分で自分を許すの?」


「じゃあ誰がお前を許してやるんだよ。
どれだけ責任背負ったって、一度死んだやつは戻ってこない。
届かない"ごめんなさい"を抱えてるだけじゃ、なんにも前には進めないだろ。

いつまでも後ろだけ見て生きてんなよ」


おかしいよな。
目線はいつだって前を見てるのに

こいつは後ろばっかり見て生きてるなんてさ。


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