時の歌姫
幼い頃、憧れの歌手が歌っていたステージも今は見る影もなくて。

その上には、コインを入れて揺れるタイプの遊具が錆びたまま並んでる。

最後に一回あのステージで歌ってみようか。

今なら誰も見てないし。


霧雨とはいえ、一曲歌った頃にはずぶ濡れになるだろうから、

どう考えても気分の上がる思いつきじゃなかったけど。

そのみじめさ加減がむしろ夢をあきらめるにはいい気がして。


あたしは本気で足を一歩踏み出していた。
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