甘いあまいイチゴの香り
「さくら、おはよ。」
「課長、おはようございます。」
「昨日、少しは進歩したのか?」
小さな声で、ニヤニヤしながら私のデスクの角に腰かける一馬くんにチラッと視線を寄越すと、ん?と首をかしげてくる。
「何にもないよ。もう、何にもなさすぎて自分の女としての魅力のなさに情けなくなるよね。
そろそろ、卒業しなきゃいけないのかなー……。」
ははっと乾いた笑いを溢すと、一馬くんはいつものように頭をポンポンとして長い足を組み直した。
ほんと、ムカつくくらいに足が長いな……。
点は二物も三物も与えて羨ましい限り。
「卒業って。お前には無理だろ。昔から冬馬一筋で、どんなに男が寄ってきても見向きもしなかったお前にはな。」
フッと笑ってまた頭をポンポンしてからデスクに向かう一馬くんの背中を見つめながら、切ない気持ちになる。
男なんて今まで寄ってきたことなんてないけど。
見向きもしないっていうのは当たってるよね。
だって私の世界には冬馬くんしか写らないし、心が惹かれないんだもん。
もうそろそろ、本気でこの先のことを考えなくちゃいけないのかもしれない。
回りはだんだん結婚して、子どもを産んでいってるのに、私はまだ、いまだに誰とも付き合ったこともない。
そんなんじゃ、いつまで経っても結婚なんてできないよね。