夢物語【完】

family



「ねえ、ちーくんって杏ちゃんのこと好きなの?」
「えー知らない。会ったら喧嘩ばっかりしてるよ」
「杏は家でも外でもちーくんのことばっか言ってる。正直うっとうしいよ」

学校からの帰り道、あたし達は3人並んで家のことを話しながら帰るのが日課。
特殊な家に生まれてきて、生まれた時から仲良しな幼なじみ。
ママ達が仲良しで、いつも一緒にいる。
幼稚園も小学校も一緒で家も近く。
ママ達がよく集まるから本当にいつも一緒にいる。

「慧ちゃんのママは超応援してるんだよね?」
「俺んち、あーいうの好きだからな。お父さんとお母さんも仲良いし。でも涼ちゃんは微妙なんだろ?」
「んー、なんか複雑って言ってた。だってもし、ちーにいとあんちゃんが結婚したら、あたしの家と慧ちゃんの家って親戚になっちゃうじゃん」
「今も親戚みたいだけどな。本当の親戚との交流ほぼゼロに等しいし」
「ママが京平くんと親戚になるの嫌がってるんだよねー」
「ほんと仲悪いよなー」

ゲラゲラと笑いながら家庭内事情を話す。
世間的には本当はこういうの聞かれちゃいけないんだけど、別に両親の話をしてるわけじゃないし、子供の話をしてるから特に気にせず話してる。

慧ちゃんとあたしは家が5分圏内で陽夏ちゃんがママのことを大好きでよく遊んでるけど、慧ちゃんと櫻はなかなか交流がなくて、あたし達が同級生だったから知り合った感じ。

あたしと櫻はママ同士が仲良しで少し離れたところに住んでるけど、定期的に会うからちーにいも櫻のことはとても可愛がってる。

「そういえば、凪くんとちーくんバンド組むんだろ?」
「そうみたい。誰が何するか決まってないみたいだけど」
「パパが“実力のない奴はいらねぇ”って言ってたよ」
「デビューするなら櫻のパパ通した方が早いもんね」

櫻のパパはうちのパパ達のバンドをプロデュースしてきた大物。
もし、あたし達が音楽界でデビューするなら櫻のパパがOK出したら出来ちゃうってヤツ。
凪くんもちーにいも本気でやるのかどうかわからないけど、他にメンバーを集めないとバンドは組めない。
世間で言われる“二世”についてきてくれる人なんているのかどうか心配っちゃ心配。

「ねーねー。紗生は好きな人いないの?」

櫻が興味深々で覗き込んでくる。
慧ちゃんはあんちゃんの事もあってか、この手の話は嫌いで呆れた顔をした。

「いないって前にも言ったじゃん」
「小さい頃は涼介くんと結婚するって言ってたのにねー」
「涼介くんは家に入り浸ってるけど、もういいオッサンだから」
「確かに。いつ結婚するんだろうね」
「この間、“俺は結婚しねー。お前らより先に死ぬ自信あるから看取れよ”ってパパとママに言ってた」

想像できすぎて笑っちゃったけど、2人はちょっと引いてた。

「寂しくないのかな?一人って」

櫻が呟いた。

「寂しくねーだろ。だってうちの家も紗生の家も櫻の家も凪くん達だっているんだし。こんな大勢に毎日囲まれてたら寂しいって思うヒマないし。寂しくなったら紗生の家にいるじゃん。てか、ほぼ毎日いるじゃん」

慧ちゃんの言うとおり、涼介くんはほぼ毎日あたしの家にいる。
仕事で家にいるときもあるし、ご飯だけ食べて帰る時もある。
それに、家に来るときは決まって“ただいま”と言って帰ってくる。

一人だし、結婚しないって言ってるし、あたしが生まれる前からこんな毎日が続いてるらしいからママとパパも何も言わないし、涼介くんも家の勝手がわかってるからお客様って感じじゃないし、もう家族だし。
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