夢物語【完】
「今日、圭ちゃんと買い物に店の近くまで来てて、店長思い出して、寄った」
《圭ちゃんは?》
「他の店に寄るって言うから一人で寄って待ってたら謙吾くんが近くまで来てて、気が付いたら先に帰ってて」
《で、なんで涼は帰らなかったの?》
「店長に食事に誘われて」
《今一緒にいるんだ?》
「…うん」
《二人っきりで?》
「…うん」
完全に蛙状態のあたしを見て大爆笑する店長なんかに構う暇なんかなくて、どうやって謝ろうか考えてたら「貸せ」と目に涙を溜めて笑いを堪えながら携帯を取り上げられた。
「久しぶり」
元気にしてたか?なんて普通に聞いてる店長の気がしれん。
耳元から携帯を離してるあたり、高成の怒号が聴こえてるんやろう。
「うるせぇよ、いいだろ別に」と笑いながら言い続ける店長は心底楽しそうで、高成の彼女のあたしは一切無視。
「あ?ちげぇよ」
一瞬変わった声色に視線を向けると目は笑ったままやった。だからって安心したのが間違ってた。
「だーかーら、俺が拉致したの。あんまり可愛いカッコしてるから飯誘ったの、俺が」
まぁ思ってもない事をぬかして再び怒号の響く携帯を笑いながら渡してきた。
なんと性悪な人間やろう、と幻滅した。
完全に楽しんでる。
あたしが高成に怒られることと高成が怒ってることを完全に楽しんでる。
「あの、…高成?」
《だから言っただろ!!》
あまりの声の大きさに思わず肩を上げるほどビクついて耳から携帯を離した。
目も見開いて耳はキーンと耳鳴りまで聴こえる。
それは店長にも聞こえたらしく、腹を抱えて再び大爆笑し始めた。
「ありえねぇ、マジありえねぇ」と他のお客さんに迷惑すぎるボリュームで連呼した。
「…ごめんなさい」
もう謝るしかないあたしは見えもしないのに頭を下げて謝った。
それを見た店長は治まった笑いを再び振り返したらしく、挙げ句の果てには「もう勘弁してくれ!電話切ってくれ!!」と言う始末。
何が面白いのかわからんあたしは苛立つしかなかったけど、そんな暇なく高成の言葉は続く。
《あの人ほんとに嫌なんだよ。マジで心配でしょうがねぇ…》
消えそうな声で言うから胸がきゅうっと締め付けられて罪悪感が生まれる。
目の前におる店長を見てたらそんな心配いらんのにって思うけど、高成の声が小さくて弱いから自分の軽い気持ちでしたことが高成にとって不安にさせる要素になるってわかって後悔する。
《今は違うってわかってるけど、知ってるけど。迎えに行ってやれないし、傍にいてやれないんだよ》
信用してるけど何かあってからじゃ困るんだよ、と呟いた。
その言葉に何も言えんくて、ただ黙って聞いてるしかできんくて、謝ってどうのこうのって話でもないような気がして、お互い無言が続いた。
見越した店長が再度携帯を取り上げて高成と話す前にボーイさんを呼んで、「あっちのパスタ新しいのと取り替えて。追加でいいから」と言ってから話しはじめた。
完全にパスタの存在を忘れてたあたしは数分前に出されたパスタを下げようとするボーイさんに「いいです、食べますから」と言うと、正面から「涼、いらんことすんな」と言われて、あっさりと下げられてしまった。
もちろん、突然呼ばれた名前のせいでもある。
電話口では高成が怒ってる声も聞こえて、「別に一回くらいいいだろ」と店長は怠そうに答えてた。
数分後には同じパスタが出来立てで運ばれてきて、高成からの電話はあたしに替わることなく店長によって切られてた。
電話が店長の手元に置かれて気が付いたけど、店長はあたしが高成と話してた間に食べ終えてたらしく、皿は綺麗になってた。