夢物語【完】
慌てるあたし以外は特に無反応で、悟さんと陽夏ちゃんは笑顔で手を振って、涼介はこっちを見ずに手を挙げた。
京平は…見てない。
どうせこっちを見ることもないやろうし。
陽夏ちゃんが隣におったからチラっと見たけど、別にこっちを見るわけでもなく、涼介みたいに手を挙げるわけでもなく、むしろ無視、みたいな感じ。
「涼に京平からメール」
そんなこと考えてたから、高成が目の前に携帯を差し出すまで「いや、あたしにじゃないやろ」って、高成の言葉すら信用せずにそう言った。
確かにあたしは京平のアドレス知らんし番号すら知らんけど、高成にあたし宛てのメールとか、さっきのもあって想像出来んし、その理由もわからん。
「ほんとだって。読んでみな」
差し出された携帯を受け取って半信半疑なあたしはそれを確認する。
「“ケーキどうも。また陽夏に教えてやって”・・・やって」
「なに他人事みたいなこと言ってんの」
他人事って高成は言うけど、相手は京平やで?
「ほんまに京平?」
「ほんとに京平。サラに教えてやって、だって。美味しかったって言ってんだって」
「わかりにくっ!」
「確かに。礼は“どうも”じゃなくて、“ありがとう”だな」
でも驚いた、と笑う高成を見て、昔からあのまんまなんやなと思った。
人間の根っこの部分はそう簡単には変わらん。
でもあたし宛てにお礼のメールを送ってきたのは天変地異が起きたからかもしれん。
実際は違うけど、京平の中で起きたんかもしれん。
あたしに礼を言うなんて。
「サラに伝授してほしいくらい美味かったんじゃない?」
そうやって高成は笑うけど、それは絶対ない。
絶対、絶対ない。
だって、だって、あの京平がよ?
そんなこと、ありえる?
「とうとう京平も涼に染まったなー」