あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「ええ、そのようなものですわ」


これ幸いと勘違いにのっておく。


「……では、いつか、あなたが教えてくださる機会をお待ちすることにしましょう」


そんな機会は、いつまでも来ないように思われた。返事をしかねて黙り込む。そろそろ宴が終わる時間だった。


使いが宴の終わりを告げに来て、微妙な空気が少し緩む。立ち上がりかけたルークさまが、こちらを振り返った。


「アンジー、明日もこちらにお邪魔してもよろしいですか」

「ええ、もちろん構いませんけれど……お茶くらいしかお出しできませんが、それでもよろしいですか」

「ええ。私は甘味をいただきにではなく、あなたにお会いしに参りますので」


なんともまあ手慣れた受け答えである。


何が気に入られたのかわからないけれど、久しぶりの誰かと一緒に過ごす時間の甘やかさは、面倒ごとの気配をかき消すには充分だった。

かしこまりました、明日も是非おいでください、と口から了承が滑り落ちる。


追い打ちで嬉しそうににっこり笑われて、やっぱりだめですと断れるひとはいないだろう。
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