あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
そわそわと朝早く起き出し、準備をし、念入りに掃除をして食器を磨く。


本当に来るのか半信半疑だった。くっつきそうなまぶたを何度も無理に離しながら、窓辺で待つ。


真っ暗闇に閉ざされた頃、控えめに戸を叩く音がした。

起きていなければそのまま寝過ごしてしまうような、こちらを起こさないことに重点を置いた叩き方だった。


「夜分遅くに失礼します。お約束していたルークです。アンジー、起きていらっしゃいますか」


ひどくひそめられたごく小さな名乗りが終わる前に扉を開ける。


いらっしゃいませ、と見上げたものの、声に眠気がにじんでしまったのを、ルークさまは聞き逃してはくれなかった。


「…………大変失礼しました、お(いとま)いたします」

「えっ、せっかく起きて待っていたのですから、帰らないでくださいませ……!」


ものすごい勢いでくるりと背を向けたルークさまの手を、慌てて引き留める。


「ご無理なさらないでくださいと申し上げたではありませんか……!」


とっさの言葉なのに、昨日よりも敬語に隙がなくなっている。

身分がわからないように、わたくしのような者にも敬語で話すことに決めたのね、とぼんやり思いながら、「いやです」と首を振った。


「昨日あなたは『はい』とおっしゃったはずですが」

「やっぱりいやです。お待ち申し上げます。どうせ一人きりなのですもの。あなたさまを待って明ける夜も、あなたさまを置いて眠る夜も、一人であれば同じこと」


翌日の予定なんていつも何もないから、夜更かしても問題ない。
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