あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
「今夜は月が綺麗だ。普段も月が出るまで起きていらっしゃいますか?」
「ええ」
「では、きっと明日も参ります。そうですね、このくらいの時間にお邪魔しましょうか」
「はい、お待ちしております。お忙しいでしょうから、どうぞご無理なさらないでくださいませ」
「ありがとうございます。あなたも、どうぞご無理なさいませんよう。必ず伺うつもりではおりますが、もし来られなかったときは、どうぞ夜が更ける前にお休みください」
「はい」
今日は本当にありがとうございました、おかげさまで助かりました、と微笑んで、夢のようにうつくしいひとは夜に紛れて去っていった。
馬車が見えなくなるまで窓から見送ってから、のそのそカップを片づける。
自分以外の誰かがいた余韻が消えてしまうのはもったいないような気がして、なかなか手が進まなかった。
……ルークさまは、ほんとうに明日もいらっしゃるのかしら。
手持ちのお菓子は多くない。明日のお菓子も質素なものになってしまうのは決まっているけれど、せめて今日お出ししていないものにしなくては。
お茶は同じにして、夜の涼しい風が入るように、窓はいくらか開けた方がいいかしら。そうだ、小道をもう少し整備しないと歩きにくいのじゃないかしら……。
始めは大変な面倒を引き受けてしまったと思ったけれど、今は明日が待ち遠しくて仕方がない。
こんな夜は、記憶の底をさらっても思い出せないほど、ずっとずっと久しぶりのことだった。
「ええ」
「では、きっと明日も参ります。そうですね、このくらいの時間にお邪魔しましょうか」
「はい、お待ちしております。お忙しいでしょうから、どうぞご無理なさらないでくださいませ」
「ありがとうございます。あなたも、どうぞご無理なさいませんよう。必ず伺うつもりではおりますが、もし来られなかったときは、どうぞ夜が更ける前にお休みください」
「はい」
今日は本当にありがとうございました、おかげさまで助かりました、と微笑んで、夢のようにうつくしいひとは夜に紛れて去っていった。
馬車が見えなくなるまで窓から見送ってから、のそのそカップを片づける。
自分以外の誰かがいた余韻が消えてしまうのはもったいないような気がして、なかなか手が進まなかった。
……ルークさまは、ほんとうに明日もいらっしゃるのかしら。
手持ちのお菓子は多くない。明日のお菓子も質素なものになってしまうのは決まっているけれど、せめて今日お出ししていないものにしなくては。
お茶は同じにして、夜の涼しい風が入るように、窓はいくらか開けた方がいいかしら。そうだ、小道をもう少し整備しないと歩きにくいのじゃないかしら……。
始めは大変な面倒を引き受けてしまったと思ったけれど、今は明日が待ち遠しくて仕方がない。
こんな夜は、記憶の底をさらっても思い出せないほど、ずっとずっと久しぶりのことだった。