あなたに呪いを差し上げましょう(短編)
おそろしい声が気色ばむ。


「なに?」

「こいつ、死にたくないからと嘘をついているのでは」

「取引のお約束をなさっているのは、宰相閣下です」


遮ると、息を飲む音が重なった。


「……我が父と、懇意にされているお方です」


言外に、わかるでしょう、と言った。ここは呪われ令嬢の屋敷。チェンバレン公爵家の別邸。

忍び込んできたのは、わたくしが誰か知っていてのことに決まっている。


懇意なのは自明なので言っても問題ないだろう。


「仮にわたくしが嘘をついていなかったなら、いかがなさるおつもりですか。わたくしの首ひとつで少しは収まる可能性があったものを、今ここで台無しになさるおつもりでしょうか。そして隣国に付け入る隙を与えるのですか」


黙り込む気配。


「死ぬことは怖くありません。もしこの首が必要とあらば、喜んで差し上げましょう。喜んで毒杯を賜りましょう。いつでもあなたがたの刃を受けましょう。けれどそれは決して、今ではありません」


どうぞお帰りくださいませ、と繰り返す。


じり、と先に足を引いたのは、目の前に立っている人影だった。
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