クールな同期と熱愛はじめ

首を横に振る。


「うっそだぁ。じゃあキスくらいは」


ないないない。
探るような目をする胡桃に、さっきよりも首を激しく振る。

今朝も、ジェットバスにひとりで浸かりながら、『もしかしたら桜木くんが入ってくるかも。そうしたらどうしよう。裸じゃ逃げ場がない』なんて思ったりもした。

それでも、バスルームのドアは静まり返ったまま。
私はいったいなにを期待していたのか。


「本当になにもなかったの。胡桃に嘘は吐かないよ」


なんだかやけに悲しい。
彼女の目に憐みが浮かんだような気がした。


「今夜もホテルなの?」

「どうなんだろう。修理が終わればマンションへ帰れるけど……」


どうなるのかが読めなくて、ひとまずフロントで荷物を預かったもらうことにしてあった。もしも今夜も泊まるようなことになるとするならば、シングルに空きができそうだから、そちらに移ることにはなるだろう。


「せっかくのチャンスなんだから、桜木くんを無事に落としてね」

「……それはなくなったの」

「そうなの?」

「桜木くんがもういいって」


意気込んでいたところを“もういい”と挫かれたからなのか、ちょっと拍子抜けだ。
それが寂しく感じるのは、目標を失ったからなのか、それとも彼との繋がりがなくなったからなのか。

ともかく、変な勝負は中止になったのだった。

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