部長が彼になる5秒前

「まさか、水瀬チーフが部長だなんてね…!」

その日の昼休み、
同期で編集課の、長谷川 絢(はせがわ あや)が、
ランチを食べながら、そう言った。

「ホント、びっくりしちゃった。」


朝礼後、水瀬新部長は、
挨拶周りで足早にその場を去ってしまい、
午前中は、ほぼいつも通りの業務だった。


「でも、朱里も無事チーフになったんだし。
おめでとう。また水瀬"チーフ"と関わる機会が増えるかもよ?」

その言葉に、びくっと肩が跳ねる。

「もう、"チーフ"じゃないって。部長。」

「分かってるわよ。でも、
なんか入社当初を思い出しちゃうなぁ…。

あの頃の朱里、毎日"水瀬チーフが…"
って怯えてたもんね。」


絢が思い出し笑いと共に、そう話す。


確かに、私の入社当初の思い出は、
"水瀬チーフ"のことばかりかもしれない。
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