凄腕救急医は離婚予定の契約妻を湧き立つ情熱愛で離さない
翌朝美鶴は日が昇らないうちに目を醒ました。急な環境の変化に眠れぬ夜を過ごしたというのに、長年の習慣とは恐ろしい。もう少しだけ眠ろうと目を閉じても、眠れるはずもなく美鶴はベッドから降りると薄暗い廊下を進み洗面所で顔を洗った。化粧水と色付きの乳液を塗って、髪はひとつにまとめる。部屋に戻り着替えるとリビングのカーテンを開けた。折り重なったビルの向こう側はうっすらと明るくなり始めている。
「……静か」
鳥の声も聞こえない密閉された空間は、怖いくらいの静寂を湛えている。都会の真ん中はもっと騒がしいものだと思っていたけれど、高層のマンションともなれば街の喧騒すら届かないのだろう。
「透さんは寂しくないのかな。ご両親ともあまり仲がよさそうじゃなかったし……」
小さく溜息を吐きながら、ソファーに腰を下ろすと無造作に積まれた雑誌に手を伸ばす。パラパラとめくりながら美鶴はとあるページに目を留めた。”若き日本の成功者“と題された見開きには透を含めた五人の男性の写真が掲載されている。ページをめくり、インタビュー記事を読み始めた。
「なになに? ――医師と経営者の二刀流。志木透が目指す医療と……え?透さんってお医者さんなの?」
突然美鶴の手から雑誌が抜き取られた。
「あっ」と声を上げて後ろを振り向くと透が奪い取った雑誌を近くにあったゴミ箱に放り投げようとしている。
「読ませてください」
「読まなくていい。そんなことよりずいぶんと早起きだな」
透には話をそらされて美鶴は少しムッとする。
「早起きが習慣なんです。この時間は牛舎の掃除をしていましたから……それで、お医者さんていうのは?」
聞くなら今しかないと思った。美鶴は透のことを何も知らなすぎる。
「……知りたいか?」
「はい。透さんのことはなんでも知りたいです」
美鶴が大きく頷くと透は困ったように小さく息を吐くとゆっくりと口を開いた。
「俺の母方の家は代々医者の家系で実家は病院を経営していたんだ。父と結婚して四季リゾートの傘下に入ると会員制の検診クリニックや介護付きのシニア向け高級マンションを次々に建てていったんだ。俺が医者になったのは母の強い希望だったけれど父はあまりいい顔はしなかったな……今は臨床を離れて病院を運営する立場だ。だから医者と名乗る資格はないんだ」
透の経歴のすごさに美鶴は思わず言葉を失った。大企業の社長令息というだけでなく医師の資格も持っているなんて。こうして一緒にいることさえ奇跡に近い。本来なら出会うこともないような人間なのだ。
「……静か」
鳥の声も聞こえない密閉された空間は、怖いくらいの静寂を湛えている。都会の真ん中はもっと騒がしいものだと思っていたけれど、高層のマンションともなれば街の喧騒すら届かないのだろう。
「透さんは寂しくないのかな。ご両親ともあまり仲がよさそうじゃなかったし……」
小さく溜息を吐きながら、ソファーに腰を下ろすと無造作に積まれた雑誌に手を伸ばす。パラパラとめくりながら美鶴はとあるページに目を留めた。”若き日本の成功者“と題された見開きには透を含めた五人の男性の写真が掲載されている。ページをめくり、インタビュー記事を読み始めた。
「なになに? ――医師と経営者の二刀流。志木透が目指す医療と……え?透さんってお医者さんなの?」
突然美鶴の手から雑誌が抜き取られた。
「あっ」と声を上げて後ろを振り向くと透が奪い取った雑誌を近くにあったゴミ箱に放り投げようとしている。
「読ませてください」
「読まなくていい。そんなことよりずいぶんと早起きだな」
透には話をそらされて美鶴は少しムッとする。
「早起きが習慣なんです。この時間は牛舎の掃除をしていましたから……それで、お医者さんていうのは?」
聞くなら今しかないと思った。美鶴は透のことを何も知らなすぎる。
「……知りたいか?」
「はい。透さんのことはなんでも知りたいです」
美鶴が大きく頷くと透は困ったように小さく息を吐くとゆっくりと口を開いた。
「俺の母方の家は代々医者の家系で実家は病院を経営していたんだ。父と結婚して四季リゾートの傘下に入ると会員制の検診クリニックや介護付きのシニア向け高級マンションを次々に建てていったんだ。俺が医者になったのは母の強い希望だったけれど父はあまりいい顔はしなかったな……今は臨床を離れて病院を運営する立場だ。だから医者と名乗る資格はないんだ」
透の経歴のすごさに美鶴は思わず言葉を失った。大企業の社長令息というだけでなく医師の資格も持っているなんて。こうして一緒にいることさえ奇跡に近い。本来なら出会うこともないような人間なのだ。