クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~



「待ってください、智基さん!今日こそちゃんと答えてください! なぜ、誘いを断られるのですか? きちんとした理由がなければ納得できません」


冬のはじめのひんやりした空気を裂くように、よく通る若い女性の声が地下駐車場に響く。続いて足音がこちらへ近づいてきたから、慌てて近くの柱の陰に逃げ込んだ。


(これじゃ出られない……)


恋人同士の痴話喧嘩なんて聴きたく無いのに。ましてや、生まれて初めて好きになった人のなんて……。


早く、早く去って。お願いだから。そんな私の願いも虚しく、足音は私に更に近づいてくる。

どうしようと狼狽えながらも、いざとなったらダッシュで逃げようと決意し身構えた。


「私と結婚したら、あなたもSS商事の有力な跡継ぎ候補になれる。桜井の分家である葛城家の次男でも、本家長女の婿ということで将来社長となる可能性が高くなるのに!」


桜井家と言えば三辺さんが結婚する相手がその長男だった。すると、今葛城さんと一緒にいるのはその姉妹ということ。


思いもよらない大物相手に私が呆然としていると、冷静な葛城課長の声が聞こえてきた。


「何度同じことを言わせるつもりだ? 私は社長の地位など何の興味もない。同じく桜井家のこともな」


見事なまでにすっぱりと、あの厳しくも私情を挟まない仕事中と同じ口調で。


「で、でも。あなたには今恋人が居ないのでしょう。なら、一度のお食事くらいいいではないですか!」


あれだけハッキリと切られたというのに、お嬢様はなかなか根性があるらしく葛城課長に食い下がってきた。


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