クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
珍しく送ると言って譲らなかった葛城さんの車に乗り、一緒に出勤する。誰かに見られたら――との恐れは、地下駐車場に着いた途端に消えた。
「おはよう、智基さん。今日も会社のために頑張りましょうね」
「……ああ」
車から出た途端に葛城さんに飛びついてきたのは、あの桜井のお嬢様。以前とそっくりな状況に、デジャブを感じるけれど。
前と違ったのは……
葛城さんがお嬢様を振りほどかなかったこと。
彼の腕にしがみついたお嬢様は、可愛らしく笑い彼に甘い声で話しかける。葛城さんは乗り気ではなさそうだけれど、彼女に腕を取られたままエレベーターへ向かった。
そして、桜井のお嬢様はちらっとこちらを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
“あなたに出番なんてないわよ、思い知った?”――と。そう言われたようで。
「……そんなの……わかってる。誰よりも一番わかってるから……放っておいてよ」
彼がしあわせになるのは、彼女の様な完璧なお嬢様がいい。ちょっとプライドが高いけれど、彼女はちゃんと葛城さんが好きだと全身から滲み出てる。
政略結婚だった葛城さんの両親の様な悲劇を、彼には繰り返して欲しくなかった。家族を作るなら愛し愛されて、本当の意味であたたかく家族になって欲しかったから。
彼女なら、誰も反対しない。どころかきっと逆に勧められる。
その場でコンクリートの壁に身体を預け、声を押し殺しながら涙を流した。