クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~



喫茶店を出て三辺さんと別れる。やっぱり、しあわせそうな女性を見るのは辛かった。


私には叶えられない願いだから……。


(私も……葛城さんの赤ちゃんが出来てたらよかったのに……)


たとえ兄かもしれなくても、唯一好きになれた人の子どもなら、一人でも育てていける。


不倫の子と蔑まれようと、私を産み育ててくれたお母さんの気持ちが、今は痛いほどよく解った。


(でも……現実は許されない。きょうだいなら罪だし、それでなくても私は葛城さんから離れなきゃいけないんだから)


三辺さんが教えてくれた、葛城さんの縁談。桜井家と葛城家ではほぼ本決まりと言うことで、彼が断るには恋人を連れていく必要があるということだけど。

恋人、なんて。相応の人でないときっと納得してもらえない。私だと代役すら無理だ。


明日の予定が変わったから、不動産屋さんにいただいたアパートの見取図を見ながら、夜遅くまで営業をしてるリサイクルショップに出向き、最低限必要なものを確認する。


四畳半の部屋に小さなキッチンとユニットバス付き。


葛城さんのメゾネットアパートとは比べ物にならないけれど、これが今の私の身の丈にあってる。


寒風が吹き抜けてあまりの冷たさに身を縮め、コートの前をかき寄せて震えながら歩く。


彼との日々は暖かくてしあわせな毎日だったけど……これからはずっと独り。


しっかり歩いてかなきゃならない。弱音なんて吐くな!と自分に言い聞かせた。


あのアパートで再出発をしよう。独りで生きるために、仕事を生きがいにして。


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