クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
三辺さんが運転する車で向かった先は、郊外にある川に面した料亭だった。
古民家を移築したという店内は味わいのある質感で、アパートで馴染みがある木造建築に緊張も少し和らぐ。
囲炉裏があるお座敷は個室になっていて、店員さんが襖を開くと先に如月さんが待っていたようだった。
彼女は紺色のスーツを上品に着こなして、髪をきっちり結い上げてる。唯一持つよそゆきのワンピースを着て、髪をゆるく纏めただけの自分が何だか恥ずかしく思えた。
「おばあさま、お待たせして申し訳ありません」
「いいえ、わたくしが早く来すぎただけですもの。気にしないでちょうだいね」
如月さんは孫娘の謝罪を軽く受けとめ、ニコリと笑って今度は私に目を向けた。
「お久しぶりね、加納さん……いえ、夕夏さんとお呼びしてもよろしいかしら?」
「あ、はい! あ……あの。ご無沙汰しております。今日は……お招きありがとうございました」
慌てて如月さんへ向けて頭を下げると、彼女はふふっと笑った。
その笑い方を見てあ、と思い出す。
……この表情……三辺さんでも見たけど。でも……それより前に……どこかで。
必死に記憶を引っ張り出そうとすると、思い出したのは幼く古びた記憶。
――お母さんの、笑顔だった。