クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~






「明日、なにか予定はあるか?」

「え……はい。午前中にちょっと出掛けます」


すっかり日常になった夕食の席で、葛城さんは私に予定を訊ねてきたからそう答えた。


“これから隠し事はするな”とあの話し合いで彼に言われたら、嘘をつくつもりはない……けれど。明日の用事の内容は葛城さんに話すのをためらう。


あくまでも私の勝手な思惑で組んだ予定だから、彼の与り知らぬところで終わらせたいんだ。

話すべきかどうか迷ううちに、葛城さんは「そうか」とだけ呟いて、大根を口にした。


「……うん、美味いな。味が染みた大根も悪くない」

「葛城さん、食べすぎですよ。他の具もちゃんと食べてください。栄養が偏っちゃいますから」


今晩は葛城さんのリクエストでおでん。最近は大根が彼のマイブームのようで、2本ぶんも厚切りにして入れてます。


他にはもち巾着と卵がお気に入りの様子。それを食べながらちびちび晩酌するのがお好きなようで……ちょっとだけおじ様みたいで笑いが込み上げる。


「……笑うな。これが最高だから仕方ないだろ」


ふて腐れながらも絶えずおでんをつつき、冷えたビールをあおる。こんな姿はきっと他の誰にも見せないんだろうな……と思うと、キュンと胸が鳴りしあわせを感じる。

高級レストランでワイン片手に綺麗な夜景を見るより、この方が私たちにはずっといい。


彼との離別まであと約1ヶ月……許されるその間に、葛城さんとの時間を何より大切にしたいと思う。


そんなふうにしみじみ思う私は、葛城さんから意外な誘いを受けた。

< 190 / 280 >

この作品をシェア

pagetop