クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「今、こうして生きてる……それは当たり前なんかじゃないんです。すごいことで……素晴らしいことなんです。人生……いつどうなるかなんて先のことはわかりません……ですが、後悔したりしないようにしてください……私と、お母さんのように」
それだけで、精一杯だった。
口下手で頭の回転が鈍い私が、心から言える言葉。
自分の考えを押し付けたくはない、けれど。何も伝えないままではいられなくて。
お互いに固まったままの親子を置いた私は、無責任にもその場から逃げた。足早に元来た道を戻ると、なぜか三辺さんが待ち構えてた。
「どう? 智基は顔色変えてすっ飛んできたでしょう?」
おなじみの悪戯っ子めいた笑みに、彼女が葛城さんを呼んだんだと確信した。
「確かに……でも。三辺さんに会いたくてきたんだと思いますけど……それより、こんな寒いところだと体が冷えちゃいますよ! お腹の赤ちゃんによくありませんから、早く暖まらないと」
私が慌ててコートを脱いで彼女にかけようとすると、三辺さんは苦笑いに変えてなぜか大きなため息を着いた。
「……鈍いわね、まったく。あの唐変木は私なんか見向きもせず、まっすぐにあなたを目指したのだけど?」
「え?」
トウヘンボク? 葛城さんはそんなに鈍いわけないから、誰のことを言ったんだろう?
「ま、今は良いわ。とにかく、午後はデートでしょう? 楽しんでらっしゃい」
パチリ、と三辺さんは私にウインクしてきた。
「たまには甘えて見せなさい。あの唐変木に。あいつだったら喜んであなたを甘やかすから」