クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~
「まだ何が起きたかよく解らない年齢でしたが……母がいなくなった、ということはうっすらとは判っていたんだと思います。それでも、いつも通りにお母さんに笑ってほしくて。私はお母さんに笑ったんです。でも、お母さんは動かないし笑わない……当たり前ですよね。
でも、私はそれしかできなかったんです」
そこで一旦言葉を切り、葛城さんから手を離して彼の様子を窺う。視線で先を促されて、少しだけ頷くと続けた。
こんなふうに言うことこそおこがましい。分を弁えていないと怒られそうになるかもしれない。だけど、私はどうしても伝えたかった。
「母が、変わってしまったのは大切なひとを失ったから。そして……誰にも相談できなかったからです」
それを告げた刹那――葛城さんの目元がピクリと微かに動いた。なぜ、と瞳で責められたような気分で。閉じそうになる口を無理に開き、彼に言いたいことを伝えた。
「……ただのペットの私がこう言うのもおこがましいのは解ってます。でも……言わせてください。思い詰めないで……私は……出来ることは少ないですけど。あなたのお役に立ちたいと心の底から思っています。だから……」
だから、と私は深呼吸してから彼に告げた。
「お願いします、母のようにならないでください。私は……あなたのためならなんでもしますから」