クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~

フッと影が落ちて顔を上げると、スーツ姿の男性が屈んでこちらを覗き込んできていた。年齢はたぶん三十代前半辺りで、柔らかそうな黒い髪をきっちりセットして、ノンフレームの眼鏡を掛けている。紺色のスーツにもシワ一つ見えないから、すごく生真面目そうに見えた。


眼鏡の奥の理知的な瞳は何の感情も窺えなくて、形のいい薄い唇は引き結ばれている。人形のように整った顔だちには人間味が見当たらなくて、(もしかして追い出されたり注意されるの?)と思わず身体がすくんだ。


仔犬を守るようにギュッと抱きしめたけど、男性は何も言わずこちらを見てる。通報されるかと身構えていたけど、しばらく経つと緊張が僅かに解けて思わずため息が漏れた。


それを聞いた男性の眉がピクリと小さく動いて、再び緊張で身を固くする。すると、目の前の彼の唇から意外な言葉が紡がれた。


「大丈夫か?」

「……えっ」


あまりと言えばあまりの意外さに、思わず目を見開いていただろう私。それからぱちぱちと目を瞬くと、ゆっくりと言葉の内容を理解して、コクコクと頭を振った。


「あ、あの……私なら大丈夫、です。すみません……その」


私が更に言葉を重ねようとしたところで、目の前に手のひらが差し出され視界いっぱいに肌色が広がる。とりあえず口をつぐむと、話を遮った彼はこう告げてきた。


「誰も君の心配などしていない。私は、その仔犬が大丈夫かと訊いたのだ」


清々しいまでにしっかりハッキリキッパリと、彼は私が心配の対象外と言い切った。

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