クールな課長とペットの私~ヒミツの同棲生活~

「行くぞ」

「え」


当然のように言って立ち上がった男性に、何度か目を瞬いた。気がつけば傘がこちらへと差し出されていて、無言でこちらを見てる。まさか入れてくれる?でも、そんなはずは……まさか。


(あ、ワンちゃんのためか)


一人納得した私は、タオルでくるんだワンちゃんをそっと差し出した。


「すみません、お願いします」


すると、またため息を着かれた。え、違うの? と狼狽えながら彼を見上げると、眼鏡の奥にある色素の薄い瞳には、明らかに呆れの色が浮かんでた。


「君は、良いのか?」

「私……ですか?」


どうして私の事を訊くんだろうと疑問に思いつつ、訊かれたなら答えないと、と慌てて口を開いた。


「あの、大丈夫です。ご飯はパンとお水がありますし……朝になったら市役所にいきますから」

「それまでずっとここで雨宿りするつもりか?」


もしかすると彼は、お店の迷惑になると苦言を呈したいのかもしれない。先ほどあった店員の迷惑そうな眼差しを思い出して、そうだったと身がすくんだ。


「す、すみません……すぐここから出ますから。こ、公園にでもいきます。タオルはそこの水道で洗って……洗剤は使えないですが」

「そうじゃない」


苛立ちが増した声音に、膝が震えだした。やっぱり男性が不機嫌になると、すごく恐怖を感じる。じわじわと滲む汗が頬を伝い落ちた。


けれど、そんな私の耳に入ってきたのは意外な言葉だった。


「もっと、自分の心配をしないのか。加納 夕夏(かのう ゆうか)」


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