漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
『聖乙女』はその力を保つために、常に宮にいて宮外の不浄にふれてはいけないことになっている。触れたら最後、その力は外界の不浄な空気に劣化して弱まってしまうと教えられているからだ。
だからアンバーは『聖乙女』として役目を与えられてから今に至るまで、一度たりとてこの小さな宮から出たことが無かった。そしてそれは『聖乙女』であり続ける一生、変わることはない。


(おかしな話だ)


ファシアスにはそれが歯がゆかった。


(自分が身を犠牲にして守っている平和を、その目で確かめることができないなんて)


ファシアスは思っていた。
『聖乙女』の存在は王や将軍などよりもずっと重い、と。

王は形式的に国民の上に君臨し、法や権威でもってすべてを操るが、安寧と平和をもたらすことができるかと言えば、人物によっては難しいものがある。ましてや将軍などは、もっと価値が低い。
< 10 / 128 >

この作品をシェア

pagetop