漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
そして、イロアス家の乳母の娘として育つ中で幼馴染同士として育んだファシアスとの関係も、その日から様変わりした。
年齢身分関係なく、アンバーへは敬語を使うように義務付けられた。
アンバーは神に等しき存在となったのだ。


「…たいしたもんすね。これが『聖乙女』の『御力』か」

「禊明けだから効果てき面でしょ?この『聖乙女』じきじきの治療よ。感謝なさい」

「この身に余る光栄です。有難うございます」


冗談めいたアンバーの言葉だったが、ファシアスは深々と頭を下げ慇懃に返した。

アンバーはそれから現職の『聖乙女』の教えを受けながら鍛練した。
この小さな宮の中に閉じ込もり、ただひたすらに鍛練にはげむ日々は、どれほど孤独で辛い日々だっただろう―――。

ファシアスの脳裏には、まるでアンバーがイロアス家の跡取りでもあるかのように豪奢に着飾られて役人たちに連れて行かれるアンバーの姿が残っていた。
右も左もわからないまま人形のように扱われ緊張した面持ちで連れて行かれる様は、幼いファシアスの脳裏に歯がゆい光景として焼きついた。大切なものが奪われる悔しさにも似た、かきむしられるような苦しい気持ちとともに―――。
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