漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
朝の祈りをのせた言霊は、春風に乗って麗らかな青空に消えた。

アンバーは新緑色の瞳を細め、ほがらかな春の陽射しを仰いで微笑む。重い正装に縛られた身体さえも飛べそうと思うほどに、澄み渡った晴天が遠く広がっていた。
整地された庭園には新緑がやわらかくそよぎ、淡い色の優しげな春の花が揺れる。


(神々がすごされる天にあるという楽園は、きっとこんな場所ね)


今日は春の訪れを感謝し、また一年間の豊穣を祈る春祭りの日。最高位の斎宮『聖乙女』であるアンバーが民に姿を見せる聖なる祭典の日でもあった。
今は祭典前の束の間の息抜き。
今日のための禊として長く宮にこもっていたアンバーには、肌に感じる風、耳を癒す小鳥のさえずり、掠める花の甘い香り、目に映る五彩の輝き、すべてが美しくて愛おしかった。


「あら」


しばらく庭園を歩いていると、小鳥の鳴き声が聞こえて耳をそばだてた。
青々と生い茂った木の根元で、雛鳥が弱々しく鳴いていた。動かない片羽を見ると落ちた時に怪我をしたのかもしれない。
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