漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
祭典の始まりを告げる鐘が鳴る。

国を挙げての豊穣を祈る祭典は、年に一度だけ『聖乙女』が民に姿を見せる唯一の機会でもある。
神そのものと言っていい『聖乙女』の姿を一目見ようと、国中の民が王宮前の広場に詰めかけ、王都中の騎士が有事にそなえ警備に当たる。興奮と喜び、緊張が入り混じった、一年で一番にぎやかな日である。


戦地にいることが多いファシアスもまた、この日ばかりは広場の警護に当たった。
春めいた時分に催されるのも手伝ってか、聖なる祭典とはいっても興行を楽しむような心地でいる民は浮かれ気分だ。
民同士の揉め事を治める些細なことから、盛り上がりに乗じて悪徳商売をしに来る国外の怪しい業者の取締など、目を光らせることは山とあった。ファシアスは日々の軍事訓練さながらに指示に忙殺された。

だが、やはり気にかかるのは広場の向こう―――数刻後には姿を見せる『聖乙女』アンバーのいる王宮だった。
アンバーは今、王宮付きの近衛隊のさらなる選りすぐりで構成された特別隊に厳重に守られていて、ファシアスが心配する必要はないのだが…。


「そーんなに王宮が気になりますか、ファシアス様」
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