漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
突如、陰鬱とした思いが心を覆う様子を表すように、広場の石畳を見つめるファシアスの視界が暗くなり始めた。

ふと空に視線をやって、ファシアスは目を疑う。

先ほどまで抜けるような快晴だった空がいつの間にか群雲に覆い尽くされていた。心も沈むような重たげな灰色の雲が空を蠢いている。


「…どうしたんでしょうね、急に天気が…」


アレクが不穏な声でつぶやいた。


「なんて不吉な空だ。…聖なる祭典だというのに…」

「城の様子は?なにか急な変化などは伝わって来てないか??」

「は…なにも。ですが…とは言ってもこうして城外に出ていては、おのずと入ってくる情報は古くはなりますが…」


アレクの歯切れの悪い返答を聞きながら、ファシアスは思わず城を凝視した。

おかしい。

『聖乙女』は天候も操れる力を持つ。その『御力』で豊穣の実りと平穏な日々を民に与えているのだ。
ゆえにこの重要な日に晴天であるのは『聖乙女』にとっては晴れ舞台を自ら美しく装飾するのと同じ。
それがこの不気味な曇天とは―――。


(アンバーの身になにかあったのか??)


辺りの民も、浮かれた気分から覚めるように空を見上げた。怪訝な顔は徐々に空と同じように曇っていく。
祭典はあと一時間を切っていた。


「アレク、ここを頼む」

「え…?将軍?どこへ…って、お待ちください…っ」


勝手に任を離れては困ります!という声を背に、ファシアスは城へ向かって走り始めた。
曇天のごとき暗い胸騒ぎを感じながら。





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