漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
アンバーはファシアスの身体を引き寄せ、抱き締めた。


(終わってしまうの?私たちは?いや。こんな最後はいや…いやよ…!
『御力』さえあれば、こんなことにはならなかったのに)


きつく強く、微動だにしないファシアスを抱き締めた。


(力が欲しい。
負けない力、強い力。この人を守れるだけの力が欲しい。欲しい―――!)





<ならば。解き放つのです>





風を裂く音の中に、声が聞こえた気がして、アンバーは意識を集中した。





<気づきなさい。力はすでにおまえの中に在るのです。
解き放ちなさい。心の望むままに、おまえの揺るぎない意志の力で>





光が生まれ、まばゆく輝いた。

輝きはファシアスとアンバーを包み込み、重力のしがらみを取り去った。
二人が入った光の球体は綿玉のように空を泳ぎ、夜風に流されていく。


(私の中に『御力』がまだこれほど多く残されていたの…?)


しかし、なにか感覚がちがう気がした。

いつもは降るように現れて、つかみどころを得ない『御力』。
今はちがった。己が内から滔々と溢れ出るような感覚がする。言葉にしがたいが、まるで息を吸って吐くように自然と、当たり前に自由に調整できるような―――。


光の球体はやがて森の中に溶け込み、地面に着いた瞬間に溶け込むように消えた。
夜風にさらされた瞬間、急激な倦怠感に襲われ横たわった瞬間、アンバーは眠りの闇へと落ちていった。
腕の中のファシアスの温もりに、蕩けるような安堵を感じながら―――。





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