漆黒の騎士の燃え滾る恋慕

約束

「こんなに早く…?まだ夜が明けて幾刻も経っていないのに…」


朝日で確認したが、落ちた崖は見渡す限り切り立っていて、人間がすぐに降りてこられるような地形にはなっていなかった。
大きく迂回しながら降りるしかないと見込んだから、少しでも長く休息しようとファシアスを起こさずにいたのに…。


「あの煙は、なに…?」

「おそらく…この近くの村を焼いているんだろう。俺たち『逆賊』をかくまっていないか確かめるため…」


(もしくは、俺たちをおびきよせるため…)


ファシアスは唇をかんだ。罪のない村人が虐げられてアンバーが黙っているわけがないとみたのだろう。陰湿で残虐なエルミドが考えそうなことだ。


「どうして…!?村人はなにも関係ないじゃない」

「どこにいく、アンバー」


煙が立ち昇る方へ走って行こうとしたアンバーの手をファシアスがつかんだ。


「どこって、助けに行かなきゃ…!」

「行ってあんたになにができる?小さな傷をやっと癒せるだけのあんたになにができる?」

「なに、って…」


アンバーは口ごもり、立ち尽くした。辛辣な言葉は的を射ていた。
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