漆黒の騎士の燃え滾る恋慕
「ファシアス・ソロ・イロアス。おまえとアンバーはけして犯してはいけない禁忌を犯した。恋に落ち、アンバーは国と民を捨ておまえひとりを選び、おまえはその罪人を連れ去って逃亡した」


罪人。

その汚い口がよく言ったものだ、とファシアスは口元をゆがめさせる。

おおかた、自分を殺したあとは、口実をつけてその罪人であるアンバーを幽閉でもして思いのままにするつもりなのだろう。反吐がでる。

ファシアスは血に濡れた剣を不遜にエルミドに向けた。


「俺はゆずらない。アンバーを捕えたければ、俺の屍を越えていけ。…けどな、俺もぜひ問いたい、王太子サマ。おまえこそ恥ずかしくないのか?女ひとりに自分の国の平和と安寧をゆだねて」

「…なにが言いたい」


忌々しげに声を低めるエルミド。
固唾をのんで二人のやりとりを見守る兵に聞こえるように、ファシアスは続けた。


「昨日の災厄でわかっただろ。平和なんてあっという間に崩れる。悠久の安寧なんてまがい物だ。昨日みたいなことが起きた時、女ひとりに任せきりのおまえは、大事な国や民を守るために実際に行動できるのか、と訊いているんだ」


これは天災だけに言うのではない。
スファラトの脅威が迫っている。天災ごときに騒ぎ少女ひとりに責任を問う腑抜けが未来の王では、将来など目に見えている。
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