君にまっすぐ
「武堂専務と最近、仲がいいですね。」

いつものようにオルディに乗って出社してきた孝俊の相手をしてから、事務所に戻ってきたあかりに田中が声をかけた。

「ええ、お互いに車が好きだからか意外と話が合って仲良くさせていただいているんです。」

「そうですか。武堂専務がなかなか見られないようないい笑顔をされているのが目に入ったものですから。」

「室長は武堂専務のこと前からご存じなんですか?」

「ええ、私は若いときからこのビルのオーナーである武堂専務のお父様である社長によくしていただいてまして、専務の子供の時からよく存じ上げています。」

「え?そうなんですか?知りませんでした、室長の話題が出たことはなかったので。」

「まぁ、それはご自分の過去をバラされるのが嫌だったからじゃないですか?結構なやんちゃ坊主でしたから。」

「ふふっ、孝俊さんをやんちゃ坊主って言えるのすごいですね。でもあの人、普段は紳士面してるのに私のことをからかったり結構子供っぽい所もあるので、想像に容易いです。」

孝俊とのやり取りを思い出しているのかクスッと笑いがこぼれている。

「おや?武堂さんがいつの間にか孝俊さんに変わってますね?」

「いや、これは友達なんだから、そう呼べと言われまして。」

顔を赤くしながらも、不味いというような表情を浮かべているあかりに田中は穏やかに声をかける。

「いいんですよ、どうせ坊っちゃんが強要したのでしょうから。」

あかりは驚き顔で田中を仰ぎ見て固まったかと思うと、肩を震わせて笑い出した。
あっという間に大爆笑だ。

「ぼ、ぼっちゃんって。面白すぎる。」

お腹を抱えて笑っているあかりが落ち着いて仕事に取りかかるまで田中は微笑ましく見つめていた。
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