次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
悲しい決意
「それでは、申し訳ありませんが失礼します」

深く礼をした私にデスクから視線を上げて、駿介が頷く。

「蔵本の家からの呼び出しなんて、滅多にない事だからな。仕事の事は気にせずに帰れ」

「ありがとうございます」

退出した後、常務室の扉をそっと撫でた。

きっとこの週末、駿介も私も人生が大きく変わる。そうなった後も私はこの扉を開けて、変わらずに仕事出来るだろうか?

「幸恵さん、お先に失礼します。ありがとうございました」

「‥‥あ、はい。お疲れ様でした」

いつもと少しだけ違う挨拶に違和感を感じたのか、戸惑ったように返事をしてくれた幸恵さんに会釈して秘書室を出た。

仕事を辞めるなら、幸恵さんにも会えなくなるかもしれない。
ううん、敏彦さんと結婚するなら、私を知っている誰にも会いたくなくない。きっと心配をかけてしまうから。

それとも、いつかは敏彦さんを心から愛して、一緒に幸せになれるだろうか?
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