次期社長はウブな秘書を独占したくてたまらない
「はい‥‥」

小走りで追いつきながら、敏彦さんの表情を窺うと眉間にシワを寄せて、明らかに不機嫌だ。きっと私の服装を非難したのだって、ただの八つ当たりだろう。

ドスドスと無言で歩く敏彦さんについて入ったのは最上階のフレンチレストラン。このホテルのメインダイニングだ。

「あの‥‥‥どうか、されましたか?」

眉間にシワを寄せたまま、メニューを睨み付ける敏彦さんに遠慮がちに声をかけたら、睨む相手がメニューから私になった。

「はぁ?なんだよ」

「いえ、なんだか腹が立つことがあったみたいですから」

「あるよ!」

吠えるように言った後、ふっと表情が変わると、睦子叔母とよく似た爬虫類の笑みを浮かべた。

「ああ、でもいいや。文香と結婚したら、全部解決だからな」

「私と、ですか?」

「そう、誰でもない、文香と結婚したら解決だ。今後、こんな馬鹿にした扱いを受ける事もない」
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