冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 目のやり場に困ったまま、部屋の隅を選んでワゴンを押していく。

「ステップがなかなか上手く踏めなくてな」
「大丈夫ですわ。先日よりずいぶんと上達されてましてよ」

 くすくすと部屋を舞う上品な笑いに、どうやら密なる時間を邪魔したわけではないようだとほっとする。
 窓際のテーブルへとティーセットを運ぶと、零された溜め息をちらりと横目に見やった。

「今度の舞踏会では、君に恥をかかせないようにしなければ」
「ええ、ご期待申し上げておきます」

 レティシア姫の細くくびれた腰をたくましい腕で引き寄せるディオン王太子。
 いつもの冷淡な表情はわずかに崩され、それまでに見たことないような自信の足りなさに、フィリーナは意外な一面を見た気がした。

 ――レティシア様にだけは、きっと心を許されてるのだわ。

 いつもの威厳溢れる雰囲気が薄れているのは、レティシア姫の柔らかな空気に触れているからなのだろうと思った。
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