冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 見つめ合う二人を背にして、そうっと部屋を出ると、フィリーナはほうと今日二度目の溜め息を吐いた。

 ――いつかは私も、あんな風に寄り添い合える方に巡り合えるのかしら。

 高ぶる胸にふんわりと浮かび上がったのは、グレイス王子の姿。
 澄みきった碧い瞳を思い出して、脈を上げる。

 ――もしも、私の心を奪ってくださる方が現れるのなら、お相手はグレイス様のようなお方がいいわ……

 身の程を知らず浮かれるように騒ぐ胸を、両手で押さえる。
 まだ見ぬ運命の相手を想像しながら、フィリーナは騎士団長様の冷ややかな視線を潜るようにワゴンを押した。



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