冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「ほう、小娘が盾にでもなるつもりか。面白い」

 嘲笑うグレイスに、フィリーナは潤みを抑えた視線を上げた。

「ディオン様はこの国に必要なお方です。ご自身よりお国のことを誰よりも考えていらっしゃる素晴らしいお方です」
「なるほど、浅ましい僕は、この国にとっては取るに足らない存在だとでも言いたげだな」

 またグレイスの言葉が、胸に引っかかった。

 ――どうして、そんなにご自分を卑下なさるの……?
 思えば、あのときもそうだった。

 ―“自分のような中途半端な地位の人間でも……”

 あのときこの場所で、グレイスはかしこまらなくてもいいと言っていた。
 自分は、王子と言う立場には見合わないとでも思っているかのように。

「そうではありません。
 わたくしが失礼な物言いをしてしまいました。……申し訳ございません」

 フィリーナは両膝をつき直して、今だ逆光に陰る瞳を真っ直ぐに見上げる。
< 121 / 365 >

この作品をシェア

pagetop