冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 いつまでも見ていたい光景を惜しみながら、フィリーナは城下へと降りていく。
 城を守る堀を渡り、城下へと続く河に沿って行くと、町の賑わいが聞こえてくる。
 バルト国の城下町は、国で一番の賑わいを誇る。
 石畳に舗装されたのは近年のことで、羊や蚕を主とした品質の高い毛織物の産業が順調である証拠だろう。
 バルト国の国政は近隣国からは群を抜いて安定していて、町を行けば道端には様々な商店が景気よく軒を連ねている。

 それも、国の実質的な指導者である二人の王子が、力を合わせてこの国を統制しているからに他ならないのだ。

 フィリーナの家は、町の外れにある羊のいなくなった牧場の隅にぽつんと立っている。
 父が生きていた頃に飼っていた羊は、母の病をきっかけに牧場の地権とともに手放してしまった。
 体調の芳しくない母の看病は、二つ下の妹に任せっきりで、月に一度の休暇の日には稼いだ賃金を渡すため帰省している。
 ゆっくりと話す時間もないまま、後ろ髪を引かれながら王宮への帰路に就くのが、フィリーナの休暇の過ごし方だ。
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